内角の分散
この記事は、次の問題への答案用紙です。問題本文は、以下のリンクをクリックして確認してください。
parabolic-puzzles.hatenadiary.jp
まず、次のように3点をとっても一般性を失わないのでそのようにして考える:
確率密度関数が\( [0,2\pi) \) の範囲の一様分布であるような2つの独立な確率変数\( \theta, \varphi \)に対し、
\( (1,0), (\cos{\theta}, \sin{\theta}), (\cos{\varphi}, \sin{\varphi}) \)
このとき、この三角形の3つの内角はそれぞれ次のようになる。(実際の導出は\( \theta, \varphi , \pi \)の大小関係で分けて行う。
\( \theta < \varphi \)のとき
\( \frac{\varphi}{2}-\frac{\theta}{2}, \pi-\frac{\varphi}{2}, \frac{\theta}{2} \)
\( \theta \geq \varphi \)のとき
\( \frac{\theta}{2}-\frac{\varphi}{2}, \pi-\frac{\theta}{2}, \frac{\varphi}{2} \)
それぞれ分散を計算する。
どちらの場合も内角の平均は\(\frac{\pi}{3}\)であるから、
\( \theta < \varphi \)のとき
\( (分散)=\frac{1}{3} ( (\frac{\varphi}{2}-\frac{\theta}{2}-\frac{\pi}{3})^2+(\frac{2\pi}{3}-\frac{\varphi}{2})^2+(\frac{\theta}{2}-\frac{\pi}{3})^2) \)
\( =\frac{1}{18}(3\theta^2-3\theta\varphi+3\varphi^2-6\pi\varphi+4\pi^2) \)
同様に\( \theta \geq \varphi \)のとき
\( (分散)=\frac{1}{18}(3\theta^2-3\theta\varphi+3\varphi^2-6\pi\theta+4\pi^2) \)
よって、次の式で与えられる二変数関数を\( [0,2\pi)^2 \)の範囲で重積分すればよい:
\begin{eqnarray} \begin{cases}\frac{1}{18}(3\theta^2-3\theta\varphi+3\varphi^2-6\pi\varphi+4\pi^2) (\theta < \varphi) & \\\frac{1}{18}(3\theta^2-3\theta\varphi+3\varphi^2-6\pi\theta+4\pi^2) (\theta \geq \varphi) & \end{cases} \end{eqnarray}
まず、第四項以外は上下同じ式なのでその部分を重積分する:
\( \int _0 ^{2\pi} \int _0 ^{2\pi} (\frac{1}{18}(3\theta^2-3\theta\varphi+3\varphi^2+4\pi^2)) d\theta d\varphi \)
\( =\frac{1}{18}\int _0 ^{2\pi} [\theta^3-\frac{3}{2}\theta^2\varphi+(3\varphi^2+4\pi^2)\theta]_{\theta=0}^{\theta=2\pi} d\varphi \)
\( =\frac{\pi}{9}\int _0 ^{2\pi} (3\varphi^2-3\pi \varphi+8\pi^2) d\varphi \)
\( = 2\pi^4 \)
次に、第四項を重積分する:
\( -\frac{\pi}{3} (\int _0 ^{2\pi} \int _0 ^{\varphi} \varphi d\theta d\varphi + \int _0 ^{2\pi} \int _0 ^{\theta} \theta d\varphi d\theta )\)
\( =-\frac{2\pi}{3} \int _0 ^{2\pi} \int _0 ^y y dxdy \) (変数変換)
\( =-\frac{2\pi}{3} \int _0 ^{2\pi} y^2 dy \)
\( =-\frac {16} {9}\pi^4 \)
よって全体の重積分は
\( 2\pi^4 - \frac {16} {9}\pi^4 = \frac{2}{9}\pi^4 \)
よって分散の期待値は
\( \frac{\frac{2}{9}\pi^4}{(2\pi)^2}=\frac{\pi^2}{18} \)
いろんなグラフの考察
私がニコニコ動画を見ていると、こんな動画を見つけた:
しかし私はこれらのグラフを見て、「本当にこのグラフで正しいのだろうか?」と思った。
グラフ描画ソフトとしてはGRAPESが使われている。コンピューターが書いた以上、浮動小数点等の計算誤差は免れない。
そこで、私がこれらのグラフの概形を検証してみることにした。
(また、Desmosで同じ式を入力し動画に示されたグラフおよび計算結果を確認した)
(一部の検証のみ行うことにした)
Level1
\( \frac{1}{x}+\frac{1}{y}=\frac{1}{x+y} \)
このグラフは、動画ではx軸方向に1/80ごとのギザギザが入ったy=-xのグラフに見えるが、コメントで指摘されている通り、この方程式を満たす実数x,yは存在せず、グラフは空白でなければならない。以下でそれを証明する。
\( \frac{1}{x}+\frac{1}{y}=\frac{1}{x+y} \) の分母を払って
\( (x+y)^2=xy \)
\( x^2+xy+y^2=0 \)
\( (x+\frac{y}{2})^2+\frac{3}{4}y^2 =0 \)
この時、左辺は常に0以上であり、この等号が成り立つのは\( x+\frac{y}{2}=y^2=0 \) すなわちx=y=0のときに限られるが、x=y=0は元の式の分母を0にするので不適
よって元の式を満たす実数x,yは存在しない (Q.E.D.)
\( xy=\sqrt[3]{xy} \)
動画の注釈の通り、この式は \( xy^{-\frac{3}{2}}=1 \) と同値であり、これは\(xy=\pm1\)と同値であるから、動画にある通り2組の双曲線が描かれる。
Level2
\( x^2+y^2=sin(xy) \)
動画では|x|≦3.2×10^-9の範囲にのみグラフが書かれているが、実際にこれを満たす(x,y)は(0,0)のみであることを以下で証明する。
\( f(x,y)=x^2+y^2-sin(xy) \) とすると、f(x,y)≦0になることがあるのはx^2+y^2≦1の範囲内のみなので、以下-1≦x≦1,-1≦y≦1で考えることにする。
\( \frac{\partial}{\partial x}f(x,y)=2x-ycos(xy) , \frac{\partial}{\partial y}f(x,y)=2y-xcos(xy) \)であるから、
\( cos(xy)=C \)とおくと
f(x,y)が極値を取るのは \( 2x-yC=0, 2y-xC=0 \)のとき
このとき \( x(4-C^2)=0 \)となるが -1≦C≦1より x=0 よって y=0
以上より f(x,y)が極値を持つのは(x,y)=(0,0)のとき
ヘッセ行列を考えるとこれは極小値であるからこれは最小値でもある
よってf(x,y)の最小値は0(x=0,y=0のとき)なので元の式のグラフは原点のみになる。(Q.E.D.)
微妙にずれた磁石
この記事を読む前に、この動画を見ておくことをお勧めする。(詳しい説明はすべて省いた)
また、この記事を読む際は動画の11分30秒で一時停止しているものとする。
棒磁石の形状は横2a,縦b,高さ2cの直方体とする
さて、磁極を次のように定義する。(映像の右が+x方向、上が+y方向、⦿が+z方向)
NN:(-a,0,-c)
NS:(a,b,c)
SN:(a,0,0)
SS:(-a,-b,0)
ここで、地球の磁場がどの方向にかかったら原点回りの力のモーメントが0になるか考える。
磁場の向きとx軸の正の向きとがなす角をθとする。また、それぞれの磁荷が受ける力の大きさはすべて等しいので1として問題ない。
磁場ベクトルを(cosθ,sinθ)とすると
(以下工事中)
最大素数大富豪合成数問題
最大素数大富豪素数は99998888777766665555444433332222131313131313121212121111111011010101111であることが知られている。
ここでは、素数大富豪で出せる最大の合成数を求めることにする。
相手は考えない(54枚すべて使える)ものとし、ジョーカーは2ケタの数として使うものとする。すなわち、合成数は36桁となる。
上限
9で始まる36ケタの合成数が3個以上の素因数を持つとすると、(9は4枚しかないので)3個の素因数の上位桁は次のようである可能性がある(これ以外の場合、素因数の積はさらに小さくなる):
①9998..., 8..., 8...
②998..., 98..., 8...
③98..., 98..., 98...
①について、上位桁は10000×9×9=81000より小さいはずなので、9で始まることはなく不適
②について、上位桁は1000×100×9=90000より小さいはずなので、9で始まることはなく不適
③について、上位桁は99×99×99=970299より小さい。
よって、97以上で始まる36ケタの素数大富豪合成数が3個以上の素因数を持つことはありえないので、以下では素因数が2個の場合を考察する。
99で始まるもの
合成数の方で9をすでに2枚使っているので、素因数は次のようになる:
①998..., 8...
②98..., 98...
①について、上位桁は999×9=8991より小さいはずなので、99で始まることはなく不適
②について、上位桁は99×99=9801より小さいはずなので、99で始まることはなく不適
98で始まるもの
①9998..., 8... →9999×9=89991より不適
②998..., 98... →999×99=98901より適する
②(a) 98..., 98... →99×99=9801より適する
②(b) 98..., 8... →99×9=891より不適
よって2個の素因数はそれぞれ9[89]と98で始まる。
988で始まるもの
98...×98...は値が小さすぎるので2個の素因数は998と98で始まる
この段階で9と8を4枚ずつ使ってしまったので7の入り方について考えると
(7を使った後の数字の最大値は6であることに注意)
①99877776..., 986... →99877777×987=98579365899より不適
②9987776..., 9876... →9987777×9877=98649273429より不適
③998776..., 98776... →998777×98777=98656195729より不適
④99876..., 987776... →99877×987777=98656203429より不適
⑤9986..., 9877776... →9987×9877777=98649358899より不適
以上より、988で始まるものは存在しない。
987で始まるもの
7をすでに1枚使っているので、残りの7は3枚
998,98の後に8が来ないとすると
①9987776..., 986... →9987777×987=9857935899より不適
②998776..., 9876... →998777×9877=9864920429より不適
③99876..., 98776... →99877×98777=9865550429より不適
④9986..., 987776... →9987×987777=9864928899より不適
また、
①99887..., 987... →99888×988=98689344より不適
②9987..., 9887... →9988×9888=98761344より適する
このことから、2つの素因数の上4ケタは9987と9887であり、9877で始まるものは存在しない。
9876で始まるもの
9987...×9887...=9876...において7は残り1枚、6は残り3枚
①998776..., 98876...→998777×98877=98765073429より適する
②99876..., 988776...→99877×988777=98756080429より不適
下限
【数理物理学】電流と漸化式
問題:図のような回路について、次の問いに答えよ:
(1)S1のみを閉じ、十分に時間がたった時、C1,C2に蓄えられた電気量Q1,Q2を求めよ。
(2)S1を開き、続いてS2を閉じたあと十分に時間がたった時、C2,C3に蓄えられた電気量Q1',Q2'を求めよ。
(3)S2を開き、続いてS1を閉じたあと十分に時間がたった時、C1,C2に蓄えられた電気量Q1'',Q2''を求めよ。
(4)「S1を閉じ十分に時間を経過させ、S1を開きS2を閉じ十分に時間を経過させS1を開く」操作を十分に多く繰り返したとき、最終的にC2に蓄えられる電気量Qを求めよ。
解答
(1)C1,C2にかかる電圧をそれぞれV1,V2とすると、P点での電気量保存によりQ1=Q2
また、「Q=CV」によりQ1=2V1,Q2=3V2よって2V1=3V2
また、V1+V2=5であるからV1=3,V2=2
よってQ1=Q2=6(C),,
(2)十分に時間がたつと電流が流れなくなるのでC2とC3の電圧が等しくなる。
このとき「Q=CV」により電圧が一定の時電気量は電気容量に比例するので
Q1'=6*3/5=3.6(C),, , Q2'=6*2/5=2.4(C),, //このとき電圧はともに1.2V
(3) (2)が終了した段階でC1に6C,C2に3.6C溜まっているので
P点での電気量保存より-6+3.6=-Q1''+Q2''・・・①
「Q=CV」よりC1,C2にかかる電圧をそれぞれV1'',V2''とすると
Q1''=2V1'', Q2''=3V2''・・・②
また V1''+V2''=5・・・③
②を①に代入して-2V1''+3V2''=-2.4・・・④
③④を連立させて解くとV1''=3.48,V2''=1.52
よってQ1''=6.96(C), Q2''=4.56(C),,
(4)コンデンサーに電気がたまっていない状態から操作をn回繰り返したときのC1,C2,C3に蓄えられる電気量を\( a_n,b_n,c_n \)とする。この状態でS1を閉じて十分に時間が経過した時のC2に蓄えられる電気量を\(d_{n+1}\)とする。
P点での電気量保存により
\(-a_n+b_n=-a_{n+1}+d_{n+1} \)・・・①
「Q=CV」よりC1,C2にかかる電圧をそれぞれ\( U,V \)とすると
\( a_{n+1}=2U, d_{n+1}=3V \)・・・②
また \( U+V=5 \)・・・③
②を①に代入して\( -2U+3V=-a_n+b_n \)・・・④
③④を連立させて解くと\( U=\frac{a_n-b_n+15}{5}, V=\frac{b_n-a_n+10}{5} \)
よって\(a_{n+1}=\frac{2a_n-2b_n+30}{5}, d_{n+1}=\frac{3b_n-3a_n+30}{5} \)
次に、ここからS1を開きS2を閉じ十分に時間を経過させると、
電流が流れなくなるのでC2とC3の電圧が等しくなる。
このとき「Q=CV」により電圧が一定の時電気量は電気容量に比例するので
\( c_{n+1}+d_{n+1} \)の電荷がC2とC3に3:2の比で分配される。
よって \( b_{n+1}=\frac{3}{5}(c_{n}+d_{n+1})=\frac{-9a_n+9b_n+15c_n+90}{25} \)
\( c_{n+1}=\frac{2}{5}(c_{n}+d_{n+1})=\frac{-6a_n+6b_n+10c_n+60}{25} \)
\( a_{n+1}-b{n+1}-c{n+1}=a_n-b_n-c_n \)であるから、\(a_n-b_n-c_n\)は定数数列であり\(a_0-b_0-c_0=0-0-0=0\)であるから\(a_n=b_n+c_n\)(追記:これはP点での電気量保存を示す)
このとき\(c_{n+1}=\frac{4c_n+60}{25}\)となるのでこれを\(c_0=0\)の下で解いて\(c_n=-\frac{20}{7}((\frac{4}{25})^n-1) \)
\( b_n=\frac{6c_n+90}{25}=\frac{6}{35}(25-4(\frac{4}{25})^n) \)
よって、\( \lim_{x\rightarrow\infty}b_n=\frac{6}{35}\times25=\underline{\frac{30}{7}(C),,} \)
夕日が背中を押してくる
問題:
夕日(周波数\( f \)の光)が静止している質量\(m\)の物体に水平から一度に投射される。光は全て反射するものとし、夕日のエネルギーは\(E\)Jであるとする。このとき、物体はどれだけの速度を得るか?高速度は\(c\)、プランク定数は\(h\)とする。
解答:
まず、1個の光子が物体にどれだけの運動エネルギーを与えるかを考える。
周波数\( f \)の光が持つエネルギーは\(hf\)、運動量は\(\frac{hf}{c}\)であるから、衝突後の光の周波数を\(f'\)、物体の速度を\(v\)とすると、衝突前と衝突後のエネルギー保存則と運動量保存則を考えて、
\( hf = hf' + \frac{1}{2}mv^2 \)
\( \frac{hf}{c} = -\frac{hf'}{c} + mv \)
これらを整理すると、
\( hf - hf' = \frac{1}{2}mv^2 \)
\( hf + hf' = mv c \)
であるから、\( f'=\frac {mv(2c-v)}{4h} \)となる。
これを第2式に代入すると、
\( hf + \frac {mv(2c-v)}{4} =mv c \)であるから、
これを\(v\)について解くと、
\(v = \frac{\sqrt{(mc)^2+4mhf}-mc}{m} \)
なお、このとき
\( f' = \frac{mv c}{h}-f =\frac{c}{h}(\sqrt{(mc)^2+4mhf}-mc)-f \)
となる。
これは1個の電子が与えるエネルギーであり、\(E\)Jのエネルギーは電子\(\frac{E}{hf}\)個分に相当する。また、速度は運動エネルギーの平方根に比例するので、求める速度は
\( \frac{\sqrt{(mc)^2+4mhf}-mc}{m}\sqrt{\frac{E}{hf}} \)
となる。
注釈:
実際に夕日が人の背中を押した場合を考える。数値としては、\(E=70\mathrm{[J]}\) (夕日1秒分), \(m=42\mathrm{[kg]}\), \(f= 4.0 \times 10^{14} \mathrm{[Hz]} \) (赤い光)とする。すなわち、1秒間だけ押した場合を考える。このときの速度は
\( 6.837\times10^{-17} \mathrm{[m/s]} \)
となる。
中和滴定を微分してみた
今週のお題「わたしのインターネット歴」
この記事は日曜数学アドベントカレンダー13日目の記事です。
昨日の記事は、unaoyaさんによる
注意:この記事の主題は化学です。12月13日にちなんだ素数大富豪の記事を期待した人はブラウザバックしてください。
注意:この記事は、前提知識として高校化学(基礎ではない)を必要とします。
エラー:この記事の本体は高校レベルの関数の微分であり、他の記事に比べてクオリティが低いです。すみません。
私は滴定曲線に対して、ある疑問を抱いていた。というわけで、次の図を見てほしい:
(各図はWikipedia「中和滴定曲線」のものを使用した。左図は0.1mol/L塩酸10mLを0.1mol/L水酸化ナトリウムで中和、右図は0.1mol/L酢酸10mLを0.1mol/L水酸化ナトリウムで中和したときの滴定曲線だと記されている。)
(1)左図において、10.00(V/ml)の点でグラフの接線がpH軸に平行になっているように見えるが、それは本当なのか?
(2)右図において、0.00~5.00(V/ml)の部分の曲線が上に凸になっているように見えるが、その部分では微分係数はどうなっているのか?
本記事では、これらの問題を解くことにする。
以下、簡単のため1mol/L塩酸(または酢酸)1Lを1mol/L水酸化ナトリウムで中和するものとする。
水のイオン積は10^-14(定数)、塩酸と水酸化ナトリウムの電離度は1(定数)とする。
横軸には加えた水酸化ナトリウムの量(単位はL)、縦軸には水溶液のpHをとることにする。
(1)強酸と強塩基の滴定
\([\mathrm{H}^+]\)を求める
\( x \)LのNaOHが加えられたとする。このとき、水溶液は合計で\( 1+x \)L存在する。
このとき、水溶液中には元々H+が1molあったところにOH-が\( x \)mol加えられた。
また、H+とOH-は適宜中和して\([\mathrm{H}^+][\mathrm{OH}^-]=10^{-14}\)になるように調整されるので、中和したH+とOH-の量を\( t \) molとすると、H+は\(1-t\)mol,OH-は\(x-t\)mol残っているので、
\( \frac{1-t}{1+x} \frac{x-t}{1+x} =10^{-14} \) が成り立つ。
これを解くと、
\( (1-t)(x-t) =10^{-14}(1+x)^2 \)
\( t^2-(1+x)t+x-10^{-14}(1+x)^2=0 \)
\( t=\frac{(1+x)\pm\sqrt{(1+x)^2-4x+4\cdot10^{-14}(1+x)^2}}{2} \)
よって、\( [\mathrm{H}^+] = \frac {1-t}{1+x} \) であるから、
\( \begin{eqnarray} [\mathrm{H}^+] &=&\frac{1-x\mp\sqrt{(1+x)^2-4x+4\cdot10^{-14}(1+x)^2}}{2(1+x)} \\ &=&\frac{1-x\mp\sqrt{(1-x)^2+4\cdot10^{-14}(1+x)^2}}{2(1+x)} \end{eqnarray} \)
\( [\mathrm{H}^+]>0 \)より、\( [\mathrm{H}^+]=\frac{1-x+\sqrt{(1-x)^2+4\cdot10^{-14}(1+x)^2}}{2(1+x)} \) となる。
検算
\( x \rightarrow 0 \) と \( x \rightarrow \infty \)での極限を求める。
\( x \rightarrow 0 \) のときはそのまま\( x=0 \) を代入することができ、
\( [\mathrm{H}^+]=\frac{1+\sqrt{1+4\cdot10^{-14}1}}{2} \simeq 1 \)
となる。(水の電離があるため正確に1にはならない)
一方、\( x \rightarrow \infty \) のときもそのまま極限を取ることができ、
\( \begin{eqnarray} [\mathrm{H}^+]&=&\frac{\frac{1-x}{1+x}+\sqrt{(\frac{1-x}{1+x})^2+4\cdot10^{-14}}}{2} \\ &=& \frac{-1+\sqrt{1+4\cdot10^{-14}}}{2} \simeq 10^{-14} \end{eqnarray} \)
となる。(2行目の\(\simeq\)では\(\sqrt{1+\epsilon}\simeq1+\frac{\epsilon}{2}\)という近似を使った)
(水の電離があるため正確に10^-14にはならない)
pHの微分
NaOHを\(x \)L加えた時のpHを\( y \)とすると、
\( \displaystyle{ \begin{eqnarray} y&=&-\log_{10}{\frac{1-x+\sqrt{(1-x)^2+4\cdot10^{-14}(1+x)^2}}{2(1+x)}} \\ &=& \log_{10}{2} + \log_{10}{(1+x)} - \log_{10}{\left(1-x+\sqrt{(1-x)^2+4\cdot10^{-14}(1+x)^2} \right) } \end{eqnarray} } \)
であるから、この式を\(x\)について微分する。
\( \begin{eqnarray} \frac{dy}{dx} &=& \frac{1}{\log{10}}\left( \frac{1}{1+x}-\frac{-1+\frac{-2(1-x)+4\cdot10^{-14}\cdot2(1+x)}{2\sqrt{(1-x)^2+4\cdot10^{-14}(1+x)^2}}}{1-x+\sqrt{(1-x)^2+4\cdot10^{-14}(1+x)^2}} \right) \end{eqnarray}\)
これに\(x=1\)をそのまま代入すると、
\( \begin{eqnarray} \frac{dy}{dx}&=&\frac{1}{\log{10}}\left( \frac{1}{2}-\frac{-1+\frac{16\cdot10^{-14}}{2\sqrt{16\cdot10^{-14}}}}{\sqrt{16\cdot10^{-14}}} \right) \\ &=&\frac{1}{\log{10}}\left( \frac{1}{2}-\frac{-{2\sqrt{16\cdot10^{-14}}}+16\cdot10^{-14}}{32\cdot10^{-14}} \right) \\ &=& \frac{1}{\log{10}}\left( \frac{1}{2}+\frac{{8\cdot10^{-7}}-16\cdot10^{-14}}{32\cdot10^{-14}} \right) \\ & \simeq & \frac{1}{\log{10}} \left( \frac{1}{2}+\frac{1}{4}\cdot10^{7} \right) \\&\simeq&1.085\cdot10^{6}\end{eqnarray} \)
となる。
このことから、滴定曲線の中和点での微分係数が無限大ではないことがわかった。
実際にグラフ描画ソフトでも確かめてみることにする。左図は滴定曲線、右図は\(x=1\)付近での拡大図である。(描画にはGRAPES Ver7.35を用いた)
右図によると、1の付近では\(x\)が\( 0.0000001(=10^{-7}) \)増えると\(y\)は約\(0.11\)増えていることがわかる。すなわち、\(x=1\)での接線の傾きは\(\frac{0.11}{10^{-7}}=1.1\cdot10^6\)であり、これは上で求めた値と有効数字2桁で一致する。
(2)弱酸と強塩基の滴定
酢酸は次のように電離する:
\( \mathrm{CH_3COOH} \rightleftharpoons \mathrm{CH_3COO}^- + \mathrm{H}^+ \)
また、この電離の平衡定数は反応中は一定であるものとし、これを\(K\)で表す:
\( K = \frac{[\mathrm{CH_3COO}^-][\mathrm{H}^+]}{[\mathrm{CH_3COOH}]} \) (=定数)
このとき、水酸化ナトリウムが\(x\)L加えられ、加えられたOH-のうちの\(t\)molが中和したとすると、\([\mathrm{H}^+], [\mathrm{OH}^-], [\mathrm{Na}^+], [\mathrm{CH_3COO}^-],[\mathrm{CH_3COOH}]\)の間には、次のような関係がある。
水のイオン積より
\( [\mathrm{H}^+][\mathrm{OH}^-]=10^{-14} \cdots(2.1) \)
水酸化ナトリウムを加えられた量は\(x\)molなので
\( [\mathrm{Na}^+]=\frac{x}{1+x} \cdots(2.2) \)
酢酸の電離平衡より
\( \frac{[\mathrm{CH_3COO}^-][\mathrm{H}^+]}{[\mathrm{CH_3COOH}]} = K \cdots(2.3) \)
酢酸は最初に\(1\)molあったので
\( [\mathrm{CH_3COO}^-]+[\mathrm{CH_3COOH}]=\frac{1}{1+x} \cdots(2.4) \)
水素イオンのうち\(t\)molは中和したので
\( [\mathrm{H}^+]+[\mathrm{CH_3COOH}]=\frac{1-t}{1+x} \cdots(2.5) \)
水酸化物イオンのうち\(t\)molは中和したので
\( [\mathrm{OH}^-]=\frac{x-t}{1+x} \cdots(2.6) \)
未知数が(各濃度と\(t\)で)6個、式が6本あるので解けるはずである。
これを\( [\mathrm{H}^+] \)について解く。
まず、(\(t\)を消去するために)(2.2)-(2.4)+(2.5)-(2.6)を整理すると、
\( [\mathrm{Na}^+]+[\mathrm{H}^+]=[\mathrm{OH}^-]+[\mathrm{CH_3COO}^-] \)
となる。これは電気量保存則を表す。
また、(\( [\mathrm{Na}^+] \)を消去するために)この式に(2.2)を代入すると、
\( \frac{x}{1+x}+[\mathrm{H}^+]=[\mathrm{OH}^-]+[\mathrm{CH_3COO}^-] \cdots(2.7)\)
となる。
さらに、(\( [\mathrm{CH_3COOH}]\)を消去するために) (2.4)を変形して
\( [\mathrm{CH_3COOH}]=\frac{1}{1+x}-[\mathrm{CH_3COO}^-] \)
とし、これを(2.3)に代入すると
\( \frac{[\mathrm{CH_3COO}^-][\mathrm{H}^+]}{\frac{1}{1+x}-[\mathrm{CH_3COO}^-]} = K \cdots(2.8) \)
となる。
さらに、(\( [\mathrm{OH}^-] \)を消去するために) (2.1)を変形して
\( [\mathrm{OH}^-]=\frac{10^{-14}}{[\mathrm{H}^+]} \)
とし、これを(2.7)に代入し、その両辺に\({[\mathrm{H}^+]}\)をかけると
\( \frac{x}{1+x}[\mathrm{H}^+]+[\mathrm{H}^+]^2=10^{-14}+[\mathrm{CH_3COO}^-][\mathrm{H}^+] \cdots(2.9)\)
となる。
さらに、(2.8)を\([\mathrm{CH_3COO}^-]\)について解くと、
\( [\mathrm{CH_3COO}^-]=\frac{K}{(1+x)([\mathrm{H}^+]+K)} \)
であるから、これを(2.9)に代入して、
\( \frac{x}{1+x}[\mathrm{H}^+]+[\mathrm{H}^+]^2=10^{-14}+\frac{K}{(1+x)([\mathrm{H}^+]+K)}[\mathrm{H}^+] \)
となり、これを変形すると
\( [\mathrm{H}^+]^3+\left( K+\frac{x}{1+x} \right)[\mathrm{H}^+]^2+\left(\frac{x-1}{x+1}K-10^{-14}\right)[\mathrm{H}^+]-10^{-14}K=0 \cdots(2.10)\)
となる。
しかし、この3次方程式は簡単な因数分解ができない形なので、このまま(2.10)の両辺を\(x\)で微分する。
\( 3[\mathrm{H}^+]^2 \frac{d[\mathrm{H}^+]}{dx}+\frac{1}{(1+x)^2} [\mathrm{H}^+]^2+2\left( K+\frac{x}{1+x} \right)[\mathrm{H}^+] \frac{d[\mathrm{H}^+]}{dx}+\frac{2K}{(1+x)^2}[\mathrm{H}^+]+\left(\frac{x-1}{x+1}K-10^{-14}\right)\frac{d[\mathrm{H}^+]}{dx}=0 \)
\( 3[\mathrm{H}^+]^2 \frac{d[\mathrm{H}^+]}{dx}+\frac{1}{(1+x)^2} [\mathrm{H}^+]^2+2\left( K+\frac{x}{1+x} \right)[\mathrm{H}^+] \frac{d[\mathrm{H}^+]}{dx}+\frac{2K}{(1+x)^2}[\mathrm{H}^+]+\left(\frac{x-1}{x+1}K-10^{-14}\right)\frac{d[\mathrm{H}^+]}{dx}=0 \)
\( \left(3[\mathrm{H}^+]^2+2\left( K+\frac{x}{1+x} \right)[\mathrm{H}^+] +\left(\frac{x-1}{x+1}K-10^{-14}\right)\right) \frac{d[\mathrm{H}^+]}{dx}+\frac{[\mathrm{H}^+]^2+2K[\mathrm{H}^+]}{(1+x)^2}=0 \)
\( \frac{d[\mathrm{H}^+]}{dx}= - \frac {[\mathrm{H}^+]^2+2K[\mathrm{H}^+]} { (1+x)^2\left(3[\mathrm{H}^+]^2+2\left( K+\frac{x}{1+x} \right)[\mathrm{H}^+] +\left(\frac{x-1}{x+1}K-10^{-14}\right)\right) } \)
ここで、(1)と同様に\(y=-\log_{10}[\mathrm{H}^+]\)とすると、求めたいのは\( \frac{dy}{dx} \)であるから、
\( \frac{dy}{dx} = \frac{dy}{d[\mathrm{H}^+]} \cdot \frac{d[\mathrm{H}^+]}{dx} \) より、
\(\frac{dy}{d[\mathrm{H}^+]}=-\frac{1}{\log{10} [\mathrm{H}^+]}\)から
\( \frac{dy}{dx}= \frac {[\mathrm{H}^+]+2K} { \log{10} (1+x)^2\left(3[\mathrm{H}^+]^2+2\left( K+\frac{x}{1+x} \right)[\mathrm{H}^+] +\left(\frac{x-1}{x+1}K-10^{-14}\right)\right) } \) がわかる。
ここで、\(x=1\)のときの\([\mathrm{H}^+]\)を求める。(2.10)に\(x=1\)を代入すると、
\( [\mathrm{H}^+]^3+\left( K+\frac{1}{2} \right)[\mathrm{H}^+]^2-10^{-14}[\mathrm{H}^+]-10^{-14}K=0 \)
となるが、この方程式は簡単には解けずこれ以降の計算も困難でもあるため、ここからは実際の酢酸のデータである\(K=10^{-4.76}\)を代入してコンピューターで数値計算を行った。
すると、\(x=1\)のとき\( [\mathrm{H}^+]=5.89542\cdot10^{-10}\),
\( \frac{dy}{dx}= 6400.87 \)となった。
実際にグラフ描画ソフトでも確かめてみることにする。左図は滴定曲線、右図は\(x=1\)付近での拡大図である。(GRAPESでは正しく描画されなかったので描画にはオンライン版Desmosを用いた。右図において、縦軸は\(x=1\)のところにあり横軸は細い1目盛りが\(10^{-5}\)に相当する。)
右図において、\(x\)が\(10^{-5}\)進む間に\(y\)は約0.06増加していることが分かるので、この図からも\(\frac{dy}{dx}\simeq 6 \cdot 10^3 \)であることがわかる。
・・・本来は(2.10)をもう一度微分して\(x=0\)での2階微分係数を調べる予定でしたが、1階導関数ですでにこれだけ複雑になっているのでこれ以上の計算は諦めました。
というわけで、さまざまな\(K\)の値とそのときの\(\frac{dy}{dx}\)の表およびそのグラフ(両軸対数目盛)を載せて終わりにします。
\(K\) | \([\mathrm{H}^+]\) | \(\mathrm{pH}\) | \(\frac{dy}{dx}\) |
---|---|---|---|
0(極限) | 2.0000*10^-14 | 13.6990 | 0.2172 |
10^-14 | 2.7321*10^-14 | 13.5635 | 0.2966 |
10^-13 | 5.5826*10^-14 | 13.2532 | 0.6061 |
10^-12 | 1.5177*10^-13 | 12.8188 | 1.648 |
10^-11 | 4.5733*10^-13 | 12.3398 | 4.965 |
10^-10 | 1.4242*10^-12 | 11.8464 | 15.46 |
10^-9 | 4.4821*10^-12 | 11.3485 | 48.66 |
10^-8 | 1.4152*10^-11 | 10.8492 | 153.65 |
10^-7 | 4.4731*10^-11 | 10.3494 | 485.66 |
10^-6 | 1.4143*10^-10 | 9.8495 | 1535.57 |
10^-5 | 4.4722*10^-10 | 9.3495 | 4855.62 |
10^-4 | 1.4141*10^-9 | 8.8495 | 15353.20 |
10^-3 | 4.4677*10^-9 | 8.3499 | 48507.22 |
0.01=10^-2 | 1.4003*10^-8 | 7.8538 | 152033.58 |
0.1=10^-1 | 4.0825*10^-8 | 7.3891 | 443250.01 |
1=10^0 | 8.1650*10^-8 | 7.0880 | 886899.89 |
10=10^1 | 9.7590*10^-8 | 7.0106 | 1059570.04 |
100=10^2 | 9.97509*10^-8 | 7.001083 | 1083032.00 |
10^3 | 9.997501*10^-8 | 7.0001085 | 1085464.87 |
∞(極限) | 10^-7 | 7 | 1085736.20 |
綺麗なシグモイドですね。
明日の記事は、integers_blog(せきゅーん)さんによる「Ramanujanの論文を一つ紹介します」です。