浅葱色の計算用紙

数学(広義)を扱っています。

因数分解

この記事は、先日行われたロマンティック数学ナイトにインスパイアされたものです。

(注意)この記事は、全編小学校の算数のような文体で進行します。

 

太郎くんと花子さんは、次のようなゲームをしています。

・花子さんは、\( 0 \)でない整数を3つ決めて、太郎くんに伝えます。

・太郎くんは、3つの整数を並べ替えて、それらの係数に持つような\( x \)の2次式を作ります。

・太郎くんがその2次式を因数分解できたら太郎くんの勝ち、できなかったら花子さんの勝ちです。

 

花子「じゃあ、次は\( 1, 2, 3\)でやってみて。」

太郎「そうだな、\( x^2 + 3x + 2 = (x+1)(x+2) \)だから、僕の勝ちだね。」

花子「\( 1, 1, 3 \)だったらどうかな。」

太郎「\( x^2 + 3x + 1 = \cdots \)ぐぬぬ因数分解できないぞ。君の勝ちだ。」

 

それを見ていた京子さんと大地くんが話しています。

京子「このゲームは、花子さんが適切な数を選べば毎回勝てるんじゃないかな。」

大地「そうだね。少し考えてみよう。」

京子「まず、一般の2次式\( Ax^2 + Bx + C \)が因数分解できるときはどんな時か考えてみよう。」

大地「因数分解と言っても、どの範囲で因数分解するか決めないといけないね。」

京子「太郎くんは整数の範囲でしか因数分解していないみたいだから、整数の範囲で考えてみよう。」

大地「\( Ax^2 + Bx + C \)の判別式は\( B^2 - 4AC \)だから、\( B^2 - 4AC \)が平方数になることは\( Ax^2 + Bx + C \)が整数の範囲で因数分解できることの必要条件だね。」

京子「そうだね。だから、\( A, B, C \)をどう並べ替えても\( B^2 - 4AC \)が平方数にならないようにすればいいね。」

大地「もし\( A \)や\( C \)が大きかったら、\( B^2 - 4AC \)は負になるから絶対に平方数にはならないね。」

京子「でも、その大きい数が\( B \)のところに入ったらどうしよう。」

大地「\( B \)がすごく大きかったら、\( B^2 - 4AC \)は\( (B-1)^2 \)と\( B^2 \)の間に入って、平方数にならないんじゃないかな。」

京子「そうだね。」

京子さんは、次のような証明を行いました。

 

\( 0 < 4A^2 < 4C^2 < B \)とする。

このとき、

\( \begin{align*} & B^2 - 4AC \\ &= B^2 - \sqrt{4A^2 \cdot 4C^2} \\ &> B^2 - \sqrt{B \cdot B} \\ &= B^2 - B \\ &= B^2 - 2B + 1 + (B-1) \\ &> (B-1)^2 \end{align*} \)

であるから、\( (B-1)^2 < B^2-4AC < B^2 \)が成り立つ。

 

 

1週間後、太郎くんと花子さんはまた同じゲームをしていました。

花子「京子さんに必勝法を聞いたんだよね。\( 1, 2, 17\)」

太郎「実は昨日解の公式を覚えてきたんだ。\( x^2 + 17x + 2 = \left( x - \frac{-17+\sqrt{281}}{2} \right)\left( x - \frac{-17-\sqrt{281}}{2} \right) \)だね。I WIN!」

花子「(; ・`д・´) ナ、ナンダッテー !! (`・д´・ (`・д´・ ;)」

 

京子さんたちもその様子を見ていました。

京子「今度は太郎くんが実数の範囲で因数分解を始めたね。」

大地「この場合は、整数のときと同じようにはいかないね。」

京子「でも、\( Ax^2 + Bx + C \)が実数の範囲で因数分解できる必要十分条件は、\( B^2 - 4AC \)が\( 0 \)以上であることだから、判別式が使えそうだよ。」

大地「つまり、花子さんは\( a^2 - 4bc < 0, b^2 - 4ca < 0, c^2 - 4ab < 0 \)を満たす\( 0 \)でない整数\( a, b, c \)を選べばいいね。」

京子「でも、そんな整数ってあるのかな。」

大地「たとえば、\( a = b = c = 1 \)があるね。」

京子「この条件を満たす整数の組は、全部でいくつあるんだろう。」

大地「ある\( (a, b, c) \)が条件を満たすなら、\( a \)と\( b \)と\( c \)に\( 0 \)以外の数を掛けても条件を満たすから、無限にあるね。」

京子「ということは、条件を満たす点からなる\( abc \)空間上の点を考えると、原点を通る同じ直線上にある格子点は、原点以外は全部条件を満たすか、全部条件を満たさないかのどちらかだね。」

大地「ということは、単位球面上の点を考えるとうまく図示できそうだね。」

京子「単位球面上の点のうち、条件を満たす\( (a,b,c) \)の組を色で塗って、縦軸を緯度、横軸を経度とする地図に描いてみたよ。緯度経度は赤道が\( c = 0 \)、北極が\( (0, 0, 1) \)、本初子午線が\( (1,0,0) \)を通るように取ったよ。ここでは\( (a,b,c) \)は実数としたことに注意してね。」

 

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大地「東半球では、南半球には条件を満たす点はないんだね。」

京子「東半球では\( b > 0 \)で、南半球では\( c < 0 \)だから、\( a^2 - 4bc \)が必ず正になってしまうからだよ。」

 

太郎「ねぇねぇ、そのWi-Fiみたいな図形は何?」

京子「君たちのやっているゲームを図にしてみたよ。花子さんが最初に選んだ数がWi-Fiの圏内に入れば、花子さんが絶対に勝つよ。」

太郎「難しそうなことをやっているんだね。」

 

先生「おーい、授業始まるぞー、今日は一様多面体についてだからな、よく聞いとけよ!」