浅葱色の計算用紙

数学(広義)を扱っています。

有理数を2の冪で近似すること

まず、次の条件を満たす分数を考えます:

・分母と分子はともに9以下

・既約である

・1以上2未満

 

この記事の目的は、「上の条件を満たす分数をよく近似できる音律を探そう」ということです。

 

そこで、条件を満たす分数を全てリストアップしましょう。

1/1, 3/2, 4/3, 5/3, 5/4, 7/4, 6/5, 7/5, 8/5, 9/5, 7/6, 8/7, 9/7, 9/8

 

さて、これらすべてを近似できる音律はどんなものなのでしょうか。実際に構成していきましょう。以下では、1/1がC(ド)に対応するものとします。

といっても、さすがに何もないところからは始められないので十二平均律を基にして考えます。

 

十二平均律である程度近似できるもの

完全一度、完全八度

1/1はCに対するC、つまり完全一度です。どのような音律でも正確に再現できます。自明な音程と呼びたい

また、2/1は完全八度あるいはオクターブと呼ばれ、病的な音律を恣意的に作らなければどんな音律でも正確に再現されます。

完全五度、完全四度、長二度

3/2に対応するものは完全五度と呼ばれ、2^(7/12)で近似されます。

実際には3/2=2^(7.019.../12)なので、十分な近似と言えるでしょう。

3/2の逆数を取って2倍すると4/3になりますが、これは完全四度です。

4/3=2^(5.980.../12)となり、こちらもよい近似です。

また、(3/2)*(3/2)/2=9/8となりますが、これは長二度と呼ばれ、

9/8=2^(2.039.../12)が成り立ちます。

 長三度、短三度、長六度、短六度、短七度

ここで、1.25が2の3乗根(=1.259921...)に近いことを思い出しましょう。

これは、5/4≒2^(4/12)を意味します。

実際には5/4=2^(3.863.../12)で、上で近似した分数よりも少し精度が下がっていることが分かります。

これは長三度ですが、逆数を取って2倍すると短六度になります:

8/5=2^(8.136.../12)

六度を完全四度下げると(8/5÷4/3=6/5)、短三度が得られます:

6/5=2^(3.156.../12)

逆数を取って2倍すると長六度になります:

5/3=2^(8.843.../12)

さらに逆数を取って3倍すると短七度になります:

9/5=2^(10.175.../12)

長二度の逆数の2倍(16/9)も短七度と呼ばれ、実はこちらの方が2^(10/12)に近いです:

16/9=2^(9.960.../12)

Tritone(三全音)

12半音の音程の中で7/5に最も近い比率を作れるのは2^(6/12)=√2=1.414...です。

下側の音が何であるかによって増四度とも減五度とも呼ばれますが、英語ではこの両方をまとめてtritoneと呼ぶようです。

7/5=2^(5.825.../12)

 

十二平均律で近似できないもの

残りの分数は7/4, 7/6, 8/7, 9/7です。どれも7が入っていて嫌な予感しかしませんね。

これらの分数は2^(整数/12)で近似できると言い難いため、12半音とは別の音律が必要です。以下に示すとおり、これらの分数は2^(整数/36)でよく近似できます:

7/4=2^(29.064.../36)

7/6=2^(8.006.../36)

8/7=2^(6.935.../36)

9/7=2^(13.052.../36)

 

 

つまり、本当に必要だったのは24平均律ではなく36平均律だったのかもしれませんね。